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【イベントレポート】KOJI THE KITCHEN Academy vol.6を開催しました!

2026年2月21日、「KOJI THE KITCHEN Academy vol.6」が開催されました。当日は全国から醸造家や食品メーカー関係者など、リアル・オンライン合わせて総勢約100名が参加。業界の第一線で活躍する11名のリーダーによる熱い議論が交わされました。

今回のテーマは「麹×ガストロノミー」。ガストロノミーを単なる美食にとどめず、発酵食品の食品製造を文化・技術・社会の総体として捉え直し、持続可能な産業へと再定義することを試みました。

日本の食文化を未来へ繋ぐヒントが詰まった、約6時間にわたる濃密な内容をレポートでお届けします。

 

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オープニングトーク

 

オープニングは、発酵デザイナー・小倉ヒラクさん、たべものラジオ・武藤さん、糀屋三左衛門29代当主・村井のトークセッションからスタート。テンポの良い掛け合いに、会場は冒頭から活気づきます。

特に、地域ごとの発酵文化をその土地に生きる人が設計する「デザイン」と定義する独自の視点には、会場の皆さんも興味津々の様子。単なるセミナーではなく、食文化のあるべき姿を共に探求するアカデミーが幕をあけました。

 

Kojinomy&種麹概論講座

 

村井から種麹や麹に関する基礎講座が行われ、麹を多角的な知の体系として捉え直す新概念「Kojinomy(コウジノミー)」が提唱されました。

会場が特に興味を示したのが、麹が単なる自然現象ではなく、室町時代から高度な工業技術に支えられてきたという歴史です。世界最古のバイオ産業ともいえる精緻な設計思想に、皆さん熱心に頷かれていました。

さらに、食品製造の拠点としての「地域」の重要性にも注目。今、10〜20年後にはスーパーから日常的な味噌や醤油さえ消えてしまうかもしれないという、深刻な危機に私たちは直面しています。解決には、個々の生産者だけでなく、環境やコミュニティを含む地域全体で産業を守る視点が不可欠です。全国有数の食品出荷額を誇る東三河という地から、食品製造業という文脈で発酵を捉え直すことが、産業を担う”人”を次世代へ繋ぐために重要。そのための議論を今日1日で深めていきたいと語りかけ、この後のセッションへの期待が膨らむ時間となりました。

 

ミニレクチャー「ガストロノミーとはなにか?」



発酵食品の製造を「ガストロノミー(美食学)の視点で考えていくための、JIEN LLP共同代表・齋藤由佳子さんによるミニレクチャーです。

齋藤さんが提唱したのは、これまでの常識を覆す「Farm to Factory to Table」という視点です 。私たちは”農業(一次産業)”と”食卓”を直接結びがちですが、「間には必ず、食品を生み出すドライバーとしての重要な食品製造業がある」と力説されました。齋藤さんの言葉一つひとつに熱心にメモを取る参加者の皆さんの姿が非常に印象的です。

「食品の品質を安定させ、食を文化へデザインするのは”製造業”の力が欠かせません。製造業者は、顔の見えない裏方ではなく、自らの技術と哲学を語る表現者であるべきだ。」と、村井と熱い議論が交わされました。

このレクチャーを経て、会場には「製造現場に立つ人こそが食文化のドライバーである」という共通認識が生まれました。単なる知識の共有にとどまらず、参加者全員がこれからのセッションを「自分事」として捉える準備が整いました。

 

Fermentation as designーデザインとしての発酵

 

このセッションでは、発酵を自然現象ではなく、作り手の意思で描き出すデザインのプロセスとして捉え直しました。関谷醸造株式会社の宮瀬直也さんは、「日本酒作りはパズル遊び。(中略)パズルのピースの大きさ、形、配置を変えるだけで違うお酒ができる」と語り、自由で高度な設計思想を共有してくれました。

特に会場が沸いたのは、お客様の歩んできた人生を一本の清酒に昇華させたエピソードです。各地の米や水をパズルのように組み合わせ、自身の物語を「味」として具現化するクリエイティビティに、参加者の皆様からは感心の声が上がりました 。

発酵は、単なる食品製造を超え、顧客の情緒的な価値や想いを確かな技術で形にする芸術的な営みでもあります。宮瀬さんは、清酒とワインの製造の違いに触れ「味が変わっても許されるワインの文化をずるいと思うこともあるが、並行複発酵だからこそ難しく、未だに続けられる面白さがある」と、人の意思が介在するからこその面白さを熱く語り、人が発酵をデザインする可能性に、明るい希望を示しました。

 

Farm to Factory to Tableー「食」と「農」をつなぐ「工」

 

ここでは、食の安定供給を支える大手企業と、多様性を担う中小企業、それぞれの役割が語られました。印象的だったのは、醤油ソムリエール・黒島慶子さんの「(醤油メーカーの)最大手の規模ですら、製品を毎回微調整して均一な品質を設計している」という言葉です。発酵は自然任せではなく、作り手の意思による緻密なデザインのプロセスであり、ブラインドテストで大手の醤油が高く評価される事実は、「大手=味気ない」という先入観を覆すものでした。

さらに、小豆島で開催された木桶サミットでのエピソードも紹介されました。キッコーマンの社員さんが参加した際、生産者の“顔”が見えた瞬間、会場の空気が親しみと尊敬へと変化したといいます。この出来事は、「誰がつくっているのか」という情報の可視化が、大手企業の技術力の高さや価値の伝達において重要な役割を果たすことを象徴しています。

愛知県味噌溜醤油工業協同組合の平松誠さんは「規模に関わらず高い品質管理は導入可能」と中小規模の蔵元へエールを送り、株式会社MISOVATION代表・斎藤悠斗さんはオンラインを活用した「新しい市場創造」による多様性の維持の取り組みについて語りました 。また、今後の生き残り戦略として「作り手の顔が見える信頼感」こそが重要であるという認識が共有されました。

こうした議論から見えてきたのは、規模の大小を問わず、現場の顔や思想を可視化することの重要性です。高い技術力やその裏側にある人の営みが伝わることで、製品は単なる“モノ”から“選ばれる理由を持つ価値”へと変わり、信頼や共感の獲得につながっていく——そんな未来像が示されました。


Fermentation as Invisible Infrastructureーだしの循環と不可視の製造現場

 

かつおぶしの製造現場でおきている人手不足や技能継承、そして外国人労働者に頼らざるを得ない現状といった「ヒューマンリソース」の危機に光が当てられたセッション。有限会社タイコウ代表取締役の大塚麻衣子さんは、「需要があるにも関わらず生産者が増えない背景には、技術者不足、設備投資の壁、水産業に対するネガティブなイメージ、そして生産現場の非公開性がある。」と生産現場の課題を語りました。

労働環境の厳しさを恥じて隠すのではなく、むしろそうした現実をネガティブな要素も含めて正しく社会に発信し、共有すること。それこそが、消費者が「目に見えない設計」の価値に気づき、産業を支える”人”を応援するための第一歩となるのではないか。かつおぶしのカビ付けや乾燥も高度な技術による職人技です。それらの技術を守るためには、現状を公開し危機感を共有することが重要ではないかと結論づけました。

 

Factory as Social Terroirー社会的テロワールとしての工場

 

「社会的テロワール」をテーマにしたこのセッションでは、三和酒類株式会社代表取締役社長の西和紀さんが、大分県宇佐の文化を繋ぐ「麦の学校」などを通じた地域社会への深い関与に触れ、原料の産地のみならず企業活動そのものが強力なブランドを形成すると語りました。

また、合資会社八丁味噌(カクキュー)企画室長兼品質管理部長の野村健治さんは、原料の大豆は明治時代から、日本全国から仕入れており、地元のものだけにこだわっていないと明かしました。それよりも、大豆と塩のみの使用や木桶に大きな石を積む技術、天然醸造、そして旧八丁村エリアでの製造といった「独自の製法」を規定として守ることこそが、その土地らしさを形作ると語りました 。

齋藤由佳子さんは、イタリアでは、社会的テロワールを育む「食育」が重視されており、日本の栄養学や道徳中心の食育とは異なり、子供たちに製造技術そのものを積極的に教える点に特徴がある、と国外の事例も紹介しました。

地域性とは土壌そのものだけでなく、その土地に受け継がれてきた製造現場の知恵や意志によって作られるものです。伝統を現代の文脈で守り抜くリーダーたちの言葉を、会場が熱心に聞き入る姿が非常に印象的でした。

齋藤さんは最後に、「このようなオープンな議論の場を日本でどれだけ持てるかが、社会的テロワールを育てる鍵になる」と締めくくり、対話を通じた人間関係の構築こそがガストロノミーの本質であることが強調されました 。

 

ディスカッション~クロージング

 

「村井さんは、家康がすごい出てる」。クロージングセッションでは、小倉さんが東三河地域の気質を「徳川家康の大名マインドを受け継いでいる」という独特な分析からスタートしました 。武藤さんと共に語られたのは、数百年も前の歴史上の人物が、今なお地域の「OS」として、現代のものづくりに影響を与え続けているという独自の視点です。

小倉さんは、「私たちが作っているものは先祖代々作られてきたものです。私は何代目です、というのが(海外から見た)日本の最高の価値」と語りました 。個人の功績を超え、長い時間と技術がその「人」に宿っていることこそが、日本の製造業が世界に誇るべき強みです。生産・消費に関わる自分たちが歴史の一部であるという、ポジティブな認識を共有し、6時間に及ぶシンポジウムは幕を閉じました。

 

麹×東三河 ガストロノミーディナー

 

学びの締めくくりは、ホテルアークリッシュ豊橋・今里武総料理長が監修する「麹×東三河 ガストロノミーディナー」です。一日かけて考えてきた、発酵や食品製造業のあるべき姿を料理として体験しました。東三河の豊かな食材と発酵が融合した料理の数々に、皆さん食べる手が止まりません。参加者の皆さんの会話も尽きることなく、五感すべてで「ガストロノミー」を堪能することができました。

 

「買うことが応援」のその先へ。

1日を通じて、登壇者の皆さんから「買うことは応援であり、未来への投票である」という話が繰り返されていたことがとても印象的でした。一方で、現状は「顔の見える」一部の象徴的な生産者だけが応援される状態にあると感じています。

未来の日本の食卓を守るのは、工場で黙々と手を動かす名もなき”人”の存在に他なりません。だからこそ、私たちは意識的に「顔の見えない生産者」の顔を見に行き、作り手は誇りを持って現場の情熱を社会に見せていく必要があるのではないでしょうか。

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