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26/02/22 三遠ガストロノミーツアー開催レポート

2026年2月22日、愛知県東三河から静岡県遠州へと続く「三遠エリア」を舞台にした、「三遠ガストロノミーツアー」を開催いたしました!

本ツアーは、単なる観光ではなく、地域の食文化を「製造(Factory)」と「農(Farm)」の両面から深く掘り下げる試みです。小倉ヒラク氏(発酵デザイナー)、武藤太郎氏(たべものラジオ)、そして私たち糀屋三左衛門の当主である村井三左衛門の3名がアテンダーとして全行程に同行し、車内では「たべものラジオ」特別編をリアルタイムで実施。移動中も絶え間なく続く3名の専門的な考察とクロストークは、立ち寄り先の魅力を多角的に解き明かす「知の化学反応」に満ちた、贅沢な学びの場となりました。


行程

ホテルアークリッシュ豊橋発

 糀屋三左衛門(種麹)

ヤマサちくわ(練り物)

  おさだ苑(発酵茶)

しばちゃんランチマーケット(酪農)

キウイフルーツカントリー(循環型農業)

掛川駅解散

 

訪問先① 糀屋三左衛門(豊橋市)

ツアーの始まりは、私たちが守り続けてきた種麹の聖域から。二十九代当主・村井三左衛門の導きにより、日本の食文化を底流で支える「種麹(麹菌)」の深淵に触れる時間を共にしました。

私たち糀屋三左衛門は、室町時代の創業から、安定した品質の種麹を味噌・醤油・焼酎・清酒などを中心とする醸造メーカー様に供給し続けています。、長年培われてきた確かな品質を保とうとするその姿勢は、調味料の一滴にまで完璧な調和を求める日本人の美学そのものであり、創業当時から変わりません。

普段は非公開の研究室にて、試験管を封じる「綿栓(めんせん)」作りに挑んでいただきました。一見シンプルに見えるその指先の動き一つにも、容易には真似できない熟練の技が必要であり、600年以上にわたり種麹を守り抜いてきた峻厳さと、手仕事の尊さを肌で感じていただく機会となりました。

「熟成の深み」「酸化させないフレッシュさ」など、各メーカーのこだわり・理想を追い求める日本の醸造界。その極限の要求を支えているのは、目に見えない麹の挙動をミリ単位で御する、種麹屋の緻密なコントロールに他なりません。一粒の種に凝縮された数百年の時間を、確かに感じていただくひとときとなりました。

訪問先② ヤマサちくわ(豊川市)

次に向かったのは、私たち糀屋三左衛門と同じ愛知県豊橋市に根を下ろし、食文化を共に牽引してきた「ヤマサちくわ」です。文政10年の創業以来、約200年にわたり暖簾を守り続けているその姿には、同じ街で家業を継ぐ者として常に深い敬意を抱いており、当主の村井が三遠の食を語る上で欠かせない「推しスポット」として自信を持ってご紹介しました。

村井が推す理由は「魚が突然ちくわになるわけではない、そこには、魚を加工する食品製造業としてのちくわメーカーの人々の存在があり、そこに宿る技術の存在がある。人と技術の存在感や、美味しいちくわを当たり前のように安定して生産することが、どれだけすごいことなのかを感じてほしい」という思いがこもっています。

ちくわの歴史について説明いただいたのは、ヤマサちくわ専務取締役の蔵野泰輔氏。今や業界の定番となった「真ん中だけに焼き目を入れ、両端を白く残す」独自の姿が、実は自社の証として考案された意匠であったと知り、一同に驚きが走ります。職人が鮮やかにすり身を巻き付ける手捌きは、容易には真似できない熟練の域。一振りに宿るその矜持を、間近に感じる時間となりました

炭火を囲んだ体験では、焼きたてならではの「ふわふわ、ぷりぷり」とした躍動感のある食感と、肉厚な魚の旨みに感嘆の声が漏れます。昼食には豊川稲荷にちなんだお揚げの釜飯とともに、趣向を凝らした練り物を堪能。「今日でちくわに対する見え方が変わった」——そんな言葉が次々とこぼれるほど、日常の風景にある食の奥深さに、改めて心を動かされる時間となりました。


さて、ここからは愛知県豊橋市を後にし、静岡の西部「遠州」へ。ここからは「掛茶料理むとう」を営み、共に「たべものラジオ」を届ける同志、武藤太郎さんの「推しスポット」を巡る旅へと移ります。


訪問先③ おさだ苑(周智郡)

訪れたのは森町の製茶問屋「おさだ苑」。代表の長田夏海氏は、全国茶審査技術八段を有し農林水産大臣賞に輝いた、現代の茶の道を極める第一人者です。

ここで当社の黒麹菌で醸した発酵茶「山吹撫子」の製造背景について、詳しくお話を伺いました。プーアル茶など発酵茶の多くは乳酸菌由来の酸味を帯びることが多いなかで、黒麹が醸す「クエン酸」を纏ったその「山吹撫子」は、まるで果実を思わせる可憐な酸味。無菌化した茶葉に狙った菌のみを添わせる、いわば「茶麹」を醸すような厳格な独自製法が、この唯一無二の気品を実現していました。

理想の味を追求し、独自の美意識で昇華させる日本人らしい探求心。その物語に触れた皆様の瞳には、深い感銘の色が浮かびました。その感動は、この稀有な風味を分かち合いたいという願いとなり、気づけば多くの方が幾つもの品を手に取る、晴れやかな賑わいへと繋がりました。

訪問先④ しばちゃんランチマーケット(掛川市)

次に向かったのは、武藤氏が「推し人」として紹介してくれた「しばちゃん」こと柴田剛氏が営む、掛川の「しばちゃんランチマーケット」です。

ここでは、しばちゃんがジャージー牛へと注ぐ、類まれな愛の形に触れました。全頭に名前をつけ、清潔な寝床を徹底。牛が最も幸せを感じる「寝そべって反芻している時間」の時間を守り抜くことで、健やかな体内発酵を促しています。植物という高分子を、人間が享受できる豊かな乳へと作り替える牛の体は、いわば自然が生み出した究極の「バイオプラント」。愛情に満ちた環境こそが、あの濃厚で清らかな風味の源泉となっていました。

その後、店舗でいただいた搾りたての牛乳やソフトクリームは、まさにその愛の結晶です。一口ごとに広がる滋味深い甘みに、参加者の皆様の顔にも自然と綻びが広がりました。命への敬意が食の喜びへと昇華される、心洗われるひとときとなりました。



訪問先⑤ キウイフルーツカントリー(掛川市)

ツアーの最後に訪れたのは、掛川の豊かな里山に広がる体験型農園「キウイフルーツカントリー」。案内してくださったのは、キウイフルーツカントリーの創設者であり、長年この土地の農と自然の魅力を伝えてきた平野正俊氏です。

広大な農園は東京ドーム数個分にも及び、世界各地から集められた80種類以上のキウイが育てられています。農園散策では、キウイの蔓が棚一面に広がる風景のなかを歩きながら、栽培の背景やこの土地の成り立ちについて丁寧な解説を伺いました。
キウイフルーツカントリーの歴史は、創業者がアメリカから持ち帰った「ティースプーン一杯のキウイの種」から始まったと言います。わずかな種が、この里山に根を張り、長い年月をかけて現在の広大な農園へと育っていったのです。

散策の後には、農園の自然に囲まれながらBBQ体験を楽しみました。開放的な空の下、里山の空気を感じながら囲む食卓は、単なる食事を超えた豊かな時間をもたらします。ここで味わう食の喜びは、畑や森の存在をすぐそばに感じながら生まれるもの。食が自然の循環の中にあることを、身体で理解するようなひとときでした。


ーこうして私たちが巡った三遠エリアには、種麹を守る人、魚を練り上げる職人、茶を発酵させる技、牛を育てる酪農家、そして果実を育む農園が、それぞれの時間軸を持ちながら静かに息づいています。一見異なる営みに見えるそれらは、すべてが「食」という一つの文化を形づくる連なりの中にあり、微生物から森へ、農から工場へと続く大きな循環の一部でもあります。

三遠ガストロノミーツアーは、地域の食を単なる名産品として味わうのではなく、その背後にある「製造」と「農」の現場、そしてそこに宿る思想を体感する旅でした。人の手によって磨き上げられてきた技術と、土地が長い時間をかけて育んできた自然。その両者が響き合うことで、この地域ならではの食文化が形づくられています。

食とは、単なる消費の対象ではなく、土地と人と時間が織りなす物語そのものです。三遠の地に息づくその物語に触れながら、私たちは改めて、食文化を未来へとつないでいく営みの尊さを実感する一日となりました。


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